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名古屋高等裁判所 平成11年(ネ)785号 判決

控訴人 ルートロック・レンタリース株式会社

被控訴人 国

代理人 池田信彦 江藤美紀音 浅井俊延 石田正信 ほか二名

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」(原判決三頁末行冒頭から同二〇頁一〇行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一六頁末行末尾のあとに改行して次のとおり付加する。

「9 本件において、被控訴人の国税の優先権の根拠となっている、〈1〉四日市県税事務所の平成四年度不動産取得税は平成八年三月二八日に、〈2〉松阪市の平成四年度市県民税は平成一一年三月二九日に、〈3〉四日市市の平成四年度市県民税、固定資産税、都市計画税は平成一〇年二月に、それぞれ地方税法一五条の七第四項又は第五項に基づく不納欠損処分がなされたため、右地方税等は本件各配当表作成後にいずれも消滅した(〈証拠略〉)。」

二  同一七頁初行末尾のあとに改行して次のとおり付加し、同頁二行目冒頭に「2」と付加する。

「1 先行する配当手続において、私債権に優先するけれども租税債権グループでは国税に劣後するため配当を受けられなかった地方税等が、後行の配当期日後、配当実施までの間に不納欠損処分により消滅した場合においても、国税は国税徴収法二六条の適用を主張できるか。

(控訴人の主張)

国税徴収法二六条は、国税が地方税等、私債権と競合する場合の規定であり、競合する地方税等の存在が当然の前提となっているところ、本件において、被控訴人の優先権を肯定するためには、控訴人の抵当権に優先する法定納期限等を有する租税債権の存在が不可欠の要件とされるにもかかわらず、現時点においては、その地方税等そのものが存在しないのであるから、『私債権が地方税等に遅れ』という同条の要件に該当せず、優先権の根拠は既に失われたものというべきである。

(被控訴人の主張)

配当期日後に地方税等が不納欠損処分により消滅した場合においても、国税徴収法二六条の解釈上、国税の優先順位は変動しないと解される。すなわち、同条は、国税、地方税等、私債権が三すくみにある場合、租税債権グループと私債権グループとに大別した上、各グループから最強の債権を順次出し合い、債権の優劣を比較して強い方が換価代金を各自のグループに持ち帰ることにより、各グループの配当額を決めるものとしているが、その後、配当金を持ち帰った債権が消滅した場合に、各グループの配当金額を変更する旨の明文の規定を置いていない。したがって、各グループの配当総額には変動はなく、国税の優先順位は変動しないものと解すべきである。」

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  既に認定したように本件競売事件において、〈1〉四日市県税事務所は平成四年度の不動産取得税(交付要求平成六年六月一日)につき平成八年三月二八日に、〈2〉松阪市は平成四年度市県民税(交付要求平成六年六月一四日)を平成一一年三月二九日に、〈3〉四日市市は平成四年度市県民税、固定資産税、都市計画税(交付要求平成六年七月八日)を平成一〇年二月に、それぞれ地方税法一五条の七第四項又は第五項を根拠に不納欠損処分にした。これによって控訴人の抵当権設定より先に法定納期限等のある地方税等は消滅したことになる。

2  国税徴収法二六条は強制換価手続において、国税が他の地方税又は公課及びその他の私債権と競合する場合に、換価代金の配当方法を定めるものである。しかるにこれを前提とする配当表を作成し、配当期日を開いて後、配当異議訴訟係属中に、1のようにいわゆる「ぐるぐる回り」の要件を欠くに至った場合にはもはや前記二六条を適用する余地はなくなったと解するのが相当である。即ち、配当異議訴訟における被告は、原告の異議権者としての適格を争うために、原告の配当異議の申出が適式になされていないこと、原告の債権の不存在、消滅、その差押えに取消事由があること、配当要求が不適式であること等を主張できるし、さらに債権者代位権に基づき債務者が原告である債権者に対して有する一切の抗弁を主張することができると解され、また、この事由は配当異議の申出時までに生じたものに限られず、事実審の口頭弁論終結時までに生じた事実を防禦方法とすることも許されると解されるからである。

したがって、私債権に優先する公租公課は存在しないことを前提にして作成した本件平成七年八月一七日の配当表及び同じく同年一二月一九日の配当表は正当なものと認められる。配当異議訴訟における異議事由について、右と異なる被控訴人の見解は採用することはできない。

被控訴人は更に、先行する第一回の配当期日において国税徴収法二六条によって租税債権グループと私債権グループに当てるべき総額が決定しているのにもかかわらず、配当期日以後、配当異議訴訟中に右不納欠損処分があったことによって、遡って国税徴収法二六条の適用を排除することは既に配当を受けた国税に不当利得返還請求の問題が生じ、不測の損害を被ることになると主張する。被控訴人の主張する既に配当を受けた国税が、平成七年七月二五日の配当期日に被控訴人が取得した二〇九〇万五八三〇円を指すものとすれば、これが不当利得となるか否かは不納欠損処分の効力発生時期の問題であって、国税徴収法二六条が適用されるかどうかとは別異のことであるから、この点の被控訴人の主張は失当である。地方税法一五条の七第一項の滞納処分の停止処分は、本来職権によって行うものであり、その停止すべき時期の選択が地方団体の長の裁量に委ねられていることに照らせば、私債権の担保権の実行としての競売等に交付要求している場合には、これに基づき後日配当金が生じて充当されることも考えられるのであるから、軽々に滞納処分の執行の停止をすべきでない。まして本件のごとく一つの競売申立事件において数次にわたる配当が見込まれる場合にはこの点から同じ租税グループとして互いに注意を喚起して本件の如き不具合の生ずるのを避けることは困難なことではないと認められる。被控訴人の前記主張は採用できない。

二  結論

以上によれば、その余の点の判断をするまでもなく被控訴人の本件請求は理由がないから、これを認容した原判決を取り消した上、本件請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 笹本淳子 鏑木重明 戸田久)

【参考】第一審(津地裁四日市支部 平成七年(ワ)第二五八号、第三六九号 平成一一年八月一九日判決)

主文

一 津地方裁判所四日市支部平成六年(ケ)第三六号不動産競売事件について、同裁判所が平成七年八月一七日に作成した配当表のうち、被告の債権額二億六七三一万六一一〇円に対し九六二八万〇六一六円の配当額を定めた部分のうち二一二九万六四三〇円を取り消し、右金額を原告に配当する。

二 津地方裁判所四日市支部平成六年(ケ)第三六号不動産競売事件について、同裁判所が平成七年一二月一九日に作成した配当表のうち、被告の債権額三億〇五〇四万四二九五円に対し一億八一〇五万七六一六円の配当額を定めた部分のうち二二七〇万九三三〇円を取り消し、右金額を原告に配当する。

三 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同じ。

第二事案の概要

一 争いのない事実等

1 原告(前所轄庁四日市税務署長、現所轄庁名古屋国税局長)は、訴外医療法人稔会の租税債権を徴収するため、平成六年一月一四日、同医療法人所有の別紙物件目録〈略〉記載の各不動産(以下「本件各不動産」という。)を差し押さえ、同日差押登記を経由した。

2 被告は、本件各不動産に設定した根抵当権(極度額二億五〇〇〇万円、平成五年一月一三日登記)に基づき、津地方裁判所四日市支部に対し、右根抵当権実行としての競売の申立てをし(同支部平成六年(ケ)第三六号不動産競売事件。以下「本件競売事件」という。)、同支部は、平成六年三月二八日、本件不動産について競売開始決定をした。

3 原告は、同支部の平成六年五月二五日付け本件競売事件の続行決定を受けて、平成六年六月八日、滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律二〇条(一七条、一〇条三項準用)に基づき、交付要求をした。

4 本件競売手続において、まず、別紙物件目録〈略〉記載三の不動産が売却され、津地方裁判所四日市支部は、平成七年七月二五日の配当期日において、別紙一のとおり、売却代金二九七五万円から手続費用一六〇万〇三八四円を除いた配当すべき額二八一四万九六一六円につき、〈1〉被告に対し、七二四万三七八六円を、〈2〉原告に対し、二〇九〇万五八三〇円をそれぞれ配当する内容の配当表(以下「第一回配当表」という。)を作成し、同配当表どおりに配当を実施した。

右配当は、本件各不動産を差し押さえた原告の国税が四日市県税事務所、松阪市及び四日市市の地方税に先だち(国税徴収法一二条)、他方、被告の私債権がその根抵当権設定登記の日(平成五年一月一三日)に先行する日を法定納期限等とする四日市県税事務所の一四六四万四四〇〇円、松阪市の二万〇六五〇円及び四日市市の六二四万〇七八〇円の各地方税におくれ(地方税法一四条、同条の一〇)、かつ、右根抵当権設定登記日より後を法定納期限等とする原告の国税に先だつ(国税徴収法一六条)から、同法二六条の規定を適用して、〈1〉国税及び地方税の法定納期限等と根抵当権設定登記の日の先後を比較し、被告の根抵当権設定登記の日に先行する日を法定納期限等とする四日市県税事務所の一四六四万四四〇〇円、松阪市の二万〇六五〇円及び四日市市の六二四万〇七八〇円の各地方税の合計二〇九〇万五八三〇円に相当する金額を国税及び地方税等に充てるべき金額の総額、その余を私債権に充てるべき金額の総額とし(同条二号)、〈2〉国税及び地方税等相互間では、本件各不動産につき滞納処分による差押えをした原告の国税に全額を充て(同条三号、一二条)、〈3〉私債権相互間では被告が他の私債権者に優先するから、被告の債権に全額を充てる(同条四号)との処理をしたものである。

5 次いで、別紙物件目録〈略〉一、二、六及び七の各不動産が売却され、津地方裁判所四日市支部は、平成七年八月一七日の配当期日において、別紙二のとおり、売却代金九七五二万円から手続費用一二三万九三八四円を除いた配当すべき額九六二八万〇六一六円につき、被告に対し、その全額を配当する内容の配当表(以下「第二回配当表」という。)を作成した。第二回配当表は、私債権に優先する公租公課につき優先権を反復して行使することは許されないとの立場から、国税徴収法二六条を適用しなかったものである。

右配当手続において優先劣後関係が問題となる各債権は、次のとおりである。

(一) 被告

(1) 債権額 二億六七三一万六一一〇円

根抵当権設定登記日 平成五年一月一三日

(2) 債権額 三億〇〇七五万一二一〇円

根抵当権設定登記日 平成五年二月一二日

(二) 原告

(1) 交付要求額 二五億〇〇一九万一八〇〇円

法定納期限等 平成五年三月三一日ないし平成五年一二月二四日

(2) 差押登記日 平成六年一月一四日

(3) 交付要求日 平成六年六月八日

(三) 四日市県税事務所

(1) 交付要求額 五億八一五六万四四〇〇円

(内訳)

イ 平成四年度不動産取得税 一四九五万三九〇〇円

法定納期限等 平成四年五月一五日

ロ 平成五年度不動産取得税・法人県民税・法人事業税・自動車税

小計五億六六六一万〇五〇〇円

法定納期限等 平成五年四月一五日ないし平成六年二月一八日

(2) 参加差押登記日 平成六年一月二七日及び平成六年三月一日

(3) 交付要求日 平成六年六月一日

(四) 松阪市

(1) 交付要求額 一八万七四四〇円

(内訳)

イ 平成四年度市県民税 二万〇九五〇円

法定納期限等 平成四年七月一〇日

ロ 平成五年度市県民税 一六万六四九〇円

法定納期限等 平成五年七月一二日

(2) 交付要求日 平成六年六月一四日

(五) 四日市市

(1) 交付要求額 二億五九〇八万九三八〇円

(内訳)

イ 平成四年度市県民税・固定資産税・都市計画税

小計六三二万一五八〇円

法定納期限等 平成四年四月三〇日ないし平成四年五月三一日

ロ 平成五年度市県民税・固定資産税・都市計画税・法人市民税

平成六年度固定資産税・都市計画税

小計二億五二七六万七八〇〇円

法定納期限等 平成五年四月三〇日ないし平成六年五月三一日

(2) 参加差押登記日 平成六年二月一四日

(3) 交付要求日 平成六年七月八日

6 原告は、右配当期日に出頭して、第二回配当表の記載中、被告に対する配当額を定めた部分のうち二一二九万六四三〇円について異議の申出をし、配当異議の訴えを提起した(津地方裁判所平成七年(ワ)二二四号配当異議事件。回付により同裁判所四日市支部平成七年(ワ)第二五八号配当異議事件)。

7 さらに、別紙物件目録〈略〉四、五、八及び九の各不動産が売却され、津地方裁判所四日市支部は、平成七年一二月一九日の配当期日において、別紙三のとおり、売却代金一億八三〇七万円から手続費用二〇一万二三八四円を除いた配当すべき額一億八一〇五万七六一六円につき、被告に対し、一億四六四七万五五九八円及び三四五八万二〇一八円を配当する内容の配当表(以下「第三回配当表」という。)を作成した。第三回配当表は、第二回配当表と同様に、私債権に優先する公租公課につき優先権を反復して行使することは許されないとの立場から、国税徴収法二六条を適用しなかったものである。

右配当手続において優先劣後関係が問題となる各債権は、次のとおりである。

(一) 被告

(1) 債権額 二億一〇八一万八八三六円

根抵当権設定登記日 平成五年一月一三日

(2) 債権額 九四二二万五四五九円

根抵当権設定登記日 平成五年二月一二日

(二) 原告

(1) 交付要求額 二五億九一九三万五一〇〇円

法定納期限等 平成五年三月三一日ないし平成五年一二月二四日

(2) 差押登記日 平成六年一月一四日

(3) 交付要求日 平成六年六月八日

(三) 四日市県税事務所

(1) 交付要求額 六億〇四二一万五三〇〇円

(内訳)

イ 平成四年度不動産取得税 一五五七万二九〇〇円

法定納期限等 平成四年五月一五日

ロ 平成五年度不動産取得税・法人県民税・法人事業税・自動車税

小計五億八八六四万二四〇〇円

法定納期限等 平成五年四月一五日ないし平成六年二月一八日

(2) 参加差押登記日 平成六年一月二七日及び平成六年三月一日

(3) 交付要求日 平成六年六月一日

(四) 松阪市

(1) 交付要求額 一九万三七四〇円

(内訳)

イ 平成四年度市県民税 二万一六五〇円

法定納期限等 平成四年七月一〇日

ロ 平成五年度市県民税 一七万二〇九〇円

法定納期限等 平成五年七月一二日

(2) 交付要求日 平成六年六月一四日

(五) 四日市市

(1) 交付要求額 二億九六五二万三一八〇円

(内訳)

イ 平成四年度市県民税・固定資産税・都市計画税

小計七一一万四七八〇円

法定納期限等 平成四年四月三〇日ないし平成四年五月三一日

ロ 平成五年度市県民税・固定資産税・都市計画税・法人市民税

平成六年度固定資産税・都市計画税

小計二億八九四〇万八四〇〇円

法定納期限等 平成五年四月三〇日ないし平成七年五月三一日

(2) 参加差押登記日 平成六年二月一四日

(3) 交付要求日 平成六年七月八日

8 原告は、右配当期日に出頭して、第三回配当表の記載中、被告に対する配当を定めた部分のうち二二七〇万九三三〇円について異議の申出をし、配当異議の訴えを提起した(津地方裁判所四日市支部平成七年(ワ)第三六九号配当異議事件)。

二 争点

同一の不動産競売事件において不動産が順次売却されてその都度配当がなされ、先行する配当手続で国税徴収法二六条の規定による調整が行われた場合において、配当を受けることができなかった国税、地方税等は、後行の配当手続において再び私債権に優先するものとして取り扱われうるか。

(原告の主張)

国税徴収法二六条は、租税公課と私債権がいわゆる「三すくみ」の状態となったときに、その調整を図るための一般的な規定であるところ、同一所有者の担保物権についても同一事件で強制換価手続がされるとは限らないし、また、同一事件における強制換価手続においても同時配当がなされるとは限らないから、租税公課の優先権が反復行使されることは当然予測されていたとみるべきである。しかるに、同法は、あえて租税公課の優先権が反復行使されることを許さないとしなかったのであるから、当該配当時にいわゆる「三すくみ」の状態が解消していない限り、同法二六条を適用しなければならない。

国税徴収法は、原則として租税公課の優先的徴収権を認め、例外的に別段の定めがある場合に限って私債権が租税公課に優先するとしているところ、同法一五条、一六条は、質権、抵当権の設定時が国税の法定納期限等より先であった場合に限り、その限度で当該質権、抵当権によって担保された私債権が国税債権に優先するとしているに過ぎない。このように同法が右の範囲を超えて別段の定めをしていない以上、租税公課の一般的優先の原則により、担保権者が不利益を受けたとしても、何ら怪しむに足りない。また、その不利益は、一定の範囲でこれを予測、排除することが可能である。

(被告の主張)

国税徴収法二六条においては、その反復的な行使を明らかに禁止していないものの、これを形式的に適用するのは不当である。なぜなら、原告の債権は、本来被告の私債権に劣後するものであったところ、同法によって右私債権に優先する地方税債権が本件各不動産に対する差押え未了であったことで、いわば偶発的に被告の私債権に優先して配当を受けたものである。右偶発的な事項に基づく優先順位の逆転が、これに何ら関係のない被告の私債権に影響を及ぼすべき理由はない。しかも、仮に一括競売が実施されておれば、同法二六条の適用に基づき、原告は、被告の私債権に優先する地方税債権額についてその配当金を受領し得るだけであった。にもかかわらず、本件競売事件のように、被告による担保権の実行として開始された一個の競売手続における複数の目的不動産について、一括の実施ではなくたまたま異時競売が実施された場合にまで同条項の反復的な適用を許容することは、異時競売の実施という極めて偶発的な事由によって私債権者の法的利益を著しく阻害する結果をもたらすことになるため、明らかに不当である。

私債権に対する租税債権の公益性による優先権は、国税徴収法において是認されているところではあるが、同法一六条によって私債権に劣後する場合のあるとおり、いわば限定されたものである。原告の債権は、同法二六条の適用によって、被告の私債権に優先する地方税債権額についてこれを回収した以降には、もはや反復的な右優先権の行使なるものを是認しうる公益性による法的利益及び合理的必要性は何ら見当たらない。

第三争点に対する判断

同一の不動産競売事件について、不動産が順次売却されてその都度配当がされるなど、配当手続が数次に及び、先行する配当手続で国税及び地方税等と私債権等が競合したことから国税徴収法二六条による調整が行われた場合において、私債権に優先するものとして国税及び地方税等に充てるべき金額の総額を決定するために用いられながら(同条二号)、国税、地方税等相互間では劣後するため(同条三号)、現実には配当を受けることができなかった国税、地方税等は、後行の配当手続においても、同条二号(地方税法一四条の二〇第二号)ないし国税徴収法一六条(地方税法一四条の一〇等)の規定の適用上再び私債権に優先するものとして取り扱われることを妨げられないと解するのが相当である(最高裁平成一一年四月二二日第一小法廷判決)。けだし、国税及び地方税は、強制換価手続において他の債権と競合する場合には、別段の規定がない限り、全ての公課その他の債権に優先するものであり(国税徴収法八条、地方税法一四条。租税の一般的優先の原則)、国税徴収の例により徴収される公課も、国税徴収法八条の規定の準用により、別段の規定がない限り、私債権に優先するところ、現行法は、国税、地方税等と担保権の設定された私債権との調整を図るために、国税徴収法一六条等(地方税法一四条の一〇等)の規定を置いて、私債権が優先する場合を定めているものの、国税徴収法二六条を適用したことにより国税、地方税等が再度私債権に優先する結果になることを制限する趣旨の規定を置いておらず、右別段の規定がない以上、租税の一般的優先の原則が適用されると解すべきだからである。被告は、租税公課の差押えの先後、さらに同時配当がなされるか否かという偶発的な事由によって、私債権者の法的利益が著しく害されることを理由に、租税公課の優先権の反復行使を否定すべきであると主張するが、国税徴収法の解釈論上、被告の主張は採用できないこと、右のとおりである。

そこで、本件についてみると、まず第二回配当表に関し、前記争いのない事実等5記載の各債権のうち、(三)四日市県税事務所の内訳イ記載の地方税一四九五万三九〇〇円、(四)松阪市の内訳イ記載の地方税二万〇九五〇円及び(五)四日市市の内訳イ記載の地方税六三二万一五八〇円の各法定納期限等は、被告の根抵当権設定登記の日(平成五年一月一三日)に先行するから、右合計額二一二九万六四三〇円が国税及び地方税等に充てるべき金額の総額となり(同法二六条二号)、これは、国税及び地方税等相互間で優先する原告の国税に充てられることになる(同条三号)。

さらに、第三回配当表に関しては、前記争いのない事実等7記載の各債権のうち、(三)四日市県税事務所の内訳イ記載の地方税一五五七万二九〇〇円、(四)松阪市の内訳イ記載の地方税二万一六五〇円及び(五)四日市市の内訳イ記載の地方税七一一万四七八〇円の各法定納期限等は、被告の根抵当権設定登記の日(平成五年一月一三日)に先行するから、右合計額二二七〇万九三三〇円が国税及び地方税等に充てるべき金額の総額となり(同法二六条二号)、これは、国税及び地方税等相互間で優先する原告の国税に充てられることになる(同条三号)。

そうすると、原告の請求はいずれも理由がある。

(裁判官 中村さとみ)

物件目録〈略〉

別紙一~三〈略〉

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